大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)5380号 判決 1954年12月15日
原告 富士産業株式会社
代表者 石川豊吉
代理人 小松正次郎
被告 内外興産株式会社
代表者 浅水宏一
代理人 河本尚
主文
被告は原告に対し金三十六万九千三百六十九円及び之に対する昭和二十八年十一月十五日以降完済迄年六分の割合による金員を支払うべし。
訴訟費用は被告の負担とす。
本判決は金五万円の担保を供するときは仮に執行することを得。
理由
被告は、被告会社は当裁判所において昭和二十九年二月十五日午前十時破産宣告並に同時廃止の決定を受け、該決定は確定したから、被告会社は消滅し当事者たる資格を喪失したと主張するから、先ずこの争点の判断をする。被告会社が右日時に破産宣告並同時廃止の決定を受け右決定が確定したことは当事者間に争がなく、記録編綴の昭和二十九年四月十二日附閉鎖登記簿謄本写によると、被告会社は本訴提起後である昭和二十八年十二月八日株主総会の決議により解散して浅水宏一を清算人に選任し、同月十四日その登記をなしたこと、及び前記破産宣告並に同時廃止の決定は当裁判所の嘱託により昭和二十九年二月二十日その登記が為されたことが夫々認められる。ところで、清算中の会社が破産宣告を受け同時に破産廃止の決定があつた場合においては、残余財産が存在しないなら格別、多少でも財産が残存するにおいては、当然清算手続に移行すべきものであつて、その清算の目的の範囲内において尚会社は存続するものと解すべきものである。而して真正に成立したものと認め得る第二号証(動産仮差押調書)によると、原告は当裁判所昭和二十八年(ヨ)第三三二八号仮差押決定に基き昭和二十八年十一月十九日被告会社所有の動産約三十五点此の見積価格九万五千三百円相当のものの仮差押執行をなしたことが認められ、反証のない限り右物件は仮差押執行をなしたことが認められ、反証のない限り右物件は仮差押のまま存在するものと認めなければならない。してみれば、被告会社は残余財産を有することは明らかであるから、破産廃止により当然清算手続に移るべきものであつて、右清算の目的の範囲内において被告会社はなお存続するものと言わねばならない。而して被告会社の前記破産宣告により本件訴訟手続は観念上中断したことになるが、右破産廃止により、民事訴訟法第二百十四条後段の規定に従い中断事由は消滅し被告会社が当然本件訴訟手続を受継することとなるから、被告会社は当事者としての資格を喪失するものではない。
よつて進んで本案についての判断をするに、被告が原告主張の約束手形一通を振出したことは被告の認めるところであり、成立に争のない甲第一号証(本件約束手形)によれば、原告は右手形をその支払期日たる昭和二十八年十一月十四日支払場所に呈示したが、預金不足の理由でその支払を拒絶されたことが認められる。被告は、本件手形は被告が原告から買受けた鉄板代金支払のため交付したものであるところ、右買受鉄板は見本と相違して粗悪品であり、且つ数量も不足していたため被告は損害を蒙つたから、被告の蒙つた損害額と本件手形金と対等額で相殺すると抗弁するが、右損害発生の原因事実並に損害額について何等具体的な主張も立証もないから、被告の右抗弁は採用の限りでない。
以上の通りであるから、原告が被告に対し本件手形金三十六万九千三百六十九円及び之に対し手形呈示の翌日昭和二十八年十一月十五日以降右完済迄手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める本訴請求は正当であるから之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 三上修)